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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』83

last update Last Updated: 2025-01-23 17:09:52

「……美羽さん。ありがとうございます」

「ううん」

「私も赤坂さんを大事にしたい。ちゃんと話……してみます」

「わかった」

天使のような笑顔を注いでくれた。私も、やっと微笑むことができた。

「あ、連絡先交換しておこうか」

「はい! ぜひ、お願いします」

連絡先を交換し終えると、楽しい話題に変わっていく。

「そうだ。結婚パーティーしようかと大くんと話していてね。久実ちゃんもぜひ来てね」

「はい」

そこに大樹さんと赤坂さんが戻ってきた。

「楽しそうだね」

大樹さんが優しい声で言う。

美羽さんは微笑んだ。本当にお似合いだ。

「そろそろ帰るぞ久実」

「うん」

もう夕方になってしまい帰ることになった。

「また遊びに来てもいいですか?」

「ぜひ」

赤坂さんが少し早めに出て、数分後、私もマンションを出た。

赤坂さんとゆっくり話すのは次の機会になってしまうが、仕方がない。

本当は今すぐにでも、赤坂さんに気持ちを伝えたかった。

二日連続で家に帰らないと心配されてしまうだろう。

電話で言うのも嫌だからまた会える日まで我慢しようと思う。

私は、そのまま電車に向かって歩き出した。

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